MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第9回は正義を守る「ピンキー☆キャッチ」の新メンバーのスカウト活動で、2人目の候補者の調査に向かった都筑だったが。。
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■ピンキー☆キャッチ 第9回
翌日、次の候補者である女子大生の加藤咲恵にコンタクトを取るべく、実家のある西永福へと向かった。相手が女子大生ということで警戒心を抱かれぬよう、今日のお供は女性職員の遠山だ。時刻は16時。平日に大学生が帰宅するとなれば16時以降だろうという勝手な予測を立てた。助手席で加藤咲恵の資料をザッと眺めた遠山は、
と天を仰いだ。高校の卒業アルバムの写しであろう、ショートカットで綺麗な二重の女の子がはにかんでいる。確かに清純で可愛らしく、男性のみならず女子にも人気がありそうだ。都築の世代で見ると遠藤久美子の系統だ。“人当たりの良さそうなショートカット”は、どの時代でも至高の存在なのである。今年30を迎える遠山は、まるで妹を自慢するかのように続けた。
「中学高校では陸上一本、ハードルの選手だったんですって。私正直言ってピンキーみたいな子達よりもこういう子の方が可愛い。ゴテゴテ着飾ってなくて、素材そのまま?っていうんですかね」
「ああ、まあ、、」
女子はパッと見地味そうな女子を悪くは言わない。おそらく敵意の無さによる安心感なのだろう。アクティブで弁が立ち、ともすればマウントを取ってきそうな相手にはまず警戒心を抱くものだ。遠山は「こういう子は責任感もあるし、ストレートにお願いしたら絶対に大丈夫ですよ」と、会った事もない咲恵に太鼓判を押した。
咲恵の家に着くと目の前にコンビニエンスストアがあり、ガラス張りのイートインスペースからは玄関の様子が伺えた。都築は好物のフルーツパウンドケーキと紅茶を、遠山は甘栗とお茶を買って席に座った。自宅の規模を見る限り、どこにでもいる中流の家庭だろう。幅の狭い二階建てで、カゴ付きの電動自転車が玄関先に一台停められている、ありふれた一軒家だ。
2時間ほど待っていただろうか。街灯が路上を照らし始めた頃、一人の若い女性が鉄門を開けて家へと入っていった。都築と遠山は席を立ちかけたが、どうやら咲恵ではなさそうだった。髪はロングでアッシュグレー、タイトなショートパンツとタンクトップを身に付けており、身体のラインが露わになっている。写真の咲恵とは似ても似つかわない。
「この資料上だと女兄弟はいないはずですけどね。でもさすがに母親ではなさそうですし」
「そうだな。もしかすると今日はずっと在宅で、友人が来たのかもしれないな」
まだまだ長期戦になりそうな予感を胸に二人は菓子を買い足し、店員の怪訝そうな視線を無視して外の監視を続けた。
二人がプリングルスの最後の一枚をかけてジャンケンをしていると、ふと、先ほどのアッシュグレーガールが玄関から出てきた。素足にサンダル履きで、都築たちのいるコンビニへと入ってきた。
「買い出しか。もしかすると咲恵もこの後出て来るかもしれないな」
「私ちょっと近場で様子を見てきます」
遠山はプリングルスを素早く口に放り込むと、件の女性に近付いていった。都築が引き続き玄関を注視していると、遠山が肩を突いた。
「都築さん・・・あれ咲恵だ」
「え?」
「髪型も違うし、何なら顔の造形もちょこちょこ違うけど・・・でも絶対にそうです」
都築と遠山は互いに距離を取り、週刊誌を立ち読みしている女性の横顔をチラチラと覗き込んだ。写真ではにかむ咲恵と比べ、明らかに鼻筋が高く、目元にも不自然な涙袋がぷっくりと浮かんでいた。しかし愛嬌のある口元と輪郭は、なるほど咲恵のそれであった。デニムのショートパンツから伸びた足は細くも筋肉質で、陸上部時代の名残が見て取れる。都築は遠山に目配せをし、店外で咲恵を待ち伏せた。
「しかし・・言われなければ見逃していたな。この写真から2年か。何かあったんだろうか・・」
「何も無くても女性は変わるんですよ。何も無いからこそ変わることもあるし」
「そういうものなのか?でも、整形などせずとも十分可愛かったじゃないか」
「多分第三者からの目線じゃなくて、自分目線では不満足だったんじゃないですか?純朴な顔立ちよりも、より欧米に近い顔立ちが好きだったんじゃないでしょうか」
「だからといって・・・」
「私も勿体無いとは思いますよ。でもね、女は誰かに綺麗と言ってもらえる事以上に、鏡で見た時の自分の満足感が大切なんです」
「とりあえず店から出てきたら話をしてみよう。とりあえずアポ程度にでも」
言ってやった感を出す遠山を無視し、都築は身構えた。3分ほどすると、飲み物と菓子類が入ったビニール袋を手に咲恵が出てきた。遠山がサッと近寄り、いつもよりも高めのトーンで声をかけた。
「咲恵さんっ!突然ごめんなさい!ちょっとだけお話聞いてもいいですか?」
カジュアルで重みのないトーンだ。両手を合わせて腰を折り、一気に距離を詰めた。学生時代は声優志望だったと聞いたが、確かに演技力はある。咲恵は一瞬驚いたように体を硬らせたが、第一声は意外なものだった。
データ上では芸能活動をしているといった記載は無い。なんの事だか分からずに固まる都築をよそに、遠山は臨機応変な対応力を見せた。
「あ~、、ああそうなんですよ!いつも見て・・て?チェックしてて」
「え~ありがとうございます~!いつも話しかけてくれるの中高生ばっかだから意外~。TikTok好きなんですか~?」
「そう!そうなんです!TikTok大好きで」
「大人の方も見てくれてるの嬉しい!これからも応援して下さいね~!」
テンションの高い握手を交わすと、咲恵の手を掴んだまま遠山が本題にカットインした。
「ねえ咲恵さん、もっとバズりたいと思いません?」
それがどんな誘い文句なのか、気付いた都築が遠山を止めかけた。もしも討伐要員になった場合は数々の極秘事項を守ってもらわなければならず、SNSで正体を投稿するなどもってのほかだ。しかし慌てる都築を手で制し、遠山は任せろと言わんばかりの目線を送ってきた。
「・・・・・え?広告案件か何かですか??」
突然の怪しい申し出に、咲恵は流石に眉をしかめた。しかし、訝しみつつも興味は捨てきれていない咲恵を近場の喫茶店に連れ込むことに成功。ひとまず概要の説明をした。
「ええと・・・簡単に言うと、私が怪物と戦うって事ですか?」
「うん。でもさっき話したように、戦える装備品はしっかり揃ってる。出動の頻度は読めない部分もあるけど、あくまでサブ要員だから学業やTikTokの投稿活動にも支障はほぼ無いだろうし」
距離感の詰め方に長けた遠山は、すでにフラットな口調で懐に入り込んでいる。
「え~・・・でも遠山さん達は一緒に戦わないの?」
「もちろんできる限りのサポートはするよ。でも言ったでしょ?私達じゃその装備のパワーを生かしきれないの。咲恵ちゃん達みたいに特別に選ばれた人間じゃないから」
「なるほど・・そういう事かぁ」
自尊心をくすぐる上手い言い回しだ。咲恵は満更でもない表情で足を組み直した。
「でもさっき言ってた・・機密・・事項?内緒にしなきゃいけないならバズらせるのは無理ですよね?」
「もちろん自分から正体は明かせない。友達同士の秘密とかじゃなく、国家機密のレベルだから守ってもらわなきゃいけない約束事も多い。だけど・・・ここからは私の独り言だと思って聞いてね。街中での活動にはなるから、どうしたって人目にはつく。そうした中で勝手に出回る噂に関して私達は止めようが無い。ましてや咲恵ちゃんは元々が有名人だし」
「そっか。怪物と戦ってるメンバーの一人が私だって噂が流れたら、みんな私のアカウントをチェックしますもんね」
「もちろん自分から漏らすような方法はダメよ?自発的に流出させたら国からの罰則を受けることになっちゃうし」
「そんな事しませんよ。それに白か黒か断定できないくらいの噂話の方がバズるんですよ。答えが出た途端にみんな飽きて簡単に離れちゃうし。そっかなるほどなるほどね・・・・」
咲恵のTikTokは、軽快な音楽に合わせ手をヒラヒラと舞わせるように踊るものだった。ダンスのクオリティ云々といったものではなく、毎度変わるアクティブなファッションが肝だという。登録者は70万人を超えており、若い女子が中心。着用品のブランド・値段も公開し、動画アップ後にはそれらが売り切れる事もあるらしい。
「最近は同じ手法を取る人も少なくなくて・・。何かパンチが無いと埋もれちゃうなあって焦りもあったんです。あ、もちろん自分から正体バラすような事はしませんよ。これでも体育会系だし、罰則なんて受けたくないもん」
「外からは簡単そうに見えても、実際は色々と大変なのね」
「今は広告案件のお仕事も時々貰えてるんです。変に軌道に乗った分、就職活動もせずにこっち一本で来ちゃったから・・・」
「そういう状況では副業的なものがあった方が安心じゃない?お給料はさっき提示した通り、わずかだけど待機手当もちゃんと出るから。極秘活動ではあるけど、一応省庁直轄のお仕事だからね」
「うん・・・確かに安心かも。じゃあとりあえずやってみようかな」
「良かった!契約事項は後日改めて。他メンバーとの顔合わせもその時に行います。じゃあ詳細はまたLINEで送るね!」
一歩引いて聞いているとマルチ商法の勧誘だ。都築好みの承諾の取り方ではなかったが、おそらく自分だけでは到底無理であったろう。ともあれこれで二人目の確保に成功した。しかし問題は残る一人だ。
二人の若者は言葉には出さずとも、討伐手当の金額に魅力を感じたであろう事は想像に難くない。次のターゲットは中年の資産家、手当になどなびきはしないだろう。「はじめまして記念日~」と半ば強制的に咲恵の自撮りに参加させられながら、都築は最後の説得に向けて思いを巡らせていた。
(つづく)
文/平子祐希
(出典 news.nicovideo.jp)
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